フランケンシュタイン 野望 [本]
そんな時、彼が暮らすニューオリンズでは、体の一部だけを持ち去る、奇妙な連続殺人事件が起き・・。
フランケンシュタインが今もいて、世界征服を企てている・・と聞けば、どうしても興味をそそられます。しかも、彼の手で命を吹き込まれた怪物も生きている・・となればなお更です。
その上、まるで人間のパーツを集めるかのような事件が絡み、ヴィクターが予期せぬ事態が持ち上がり・・という、盛りだくさんの内容。事件を追う刑事たちを含む登場人物も魅力的で、どんどん読む進めることができます。
でも、何かが足りない。
結局本作はシリーズの第1作目であり、これから始まる、怪物とヴィクターと人間と新種が繰り広げるであろう物語の序章に過ぎないんでしょうね。だから、たっぷりとしたページ数にも関わらず、読後の充足感はいまひとつ。ま、ここは続編を待つしかないと思います。
映画もお好きな読者なら、ボケ担当刑事マイクルがしょっちゅう口にする、名作映画や名場面の数々に、きっとニンマリされるはず。そんな楽しみもあるシリーズになりそうです。★3
(画像は、大好きな「ヤング・フランケンシュタイン」のひとコマ)
愛いっぱいの本たち [本]
そんな本のなかから大晦日にご紹介するのは、愛いっぱいのミステリー作品。
まずは、ベリンダ・バウアーの処女作「ブラックランズ」。
幼い頃に行方不明になった叔父を持つ、12歳のスティーヴンの目を通して、犯罪被害者の家族が背負わされる重荷を描いた作品。
犯罪に巻き込まれた息子の遺体が発見されないため、息子を長年待ち続ける母親。彼女の苦悩が、娘や孫の人生にまで影を落とす悲惨な暮らしの中で、家族を愛し、一途に、そして健気に生きるスティーブンの姿に胸が熱くなります。
次に、キャロル・オコンネル「愛おしい骨」。
森に入ったまま姿を消した少年ジョシュア。20年後、彼の骨が少しずつ家に還り始めます。
カリフォルニア州北西部にある小さな町コヴェントリー。犯罪者も隠れ住むという静かな町を舞台に、謎に満ちた物語が展開します。
ジョシュア失踪の真相、犯人は誰か・・も気になるところですが、読む進むうち、他に類を見ない愛の物語だと気づかされる、オコンネル本領発揮の1作。
最後に、ドン・ウィンズロウの「犬の力」。
血で血を洗うドラッグ・ウォーズ。権力を手にしようと画策し、裏切りや殺戮を繰り返す者たち、それを阻止しようとする者にも家族があり、恋もします。明日の保証がないからこそ愛も真剣。
先に紹介した2作とは一味違う、極限の人間模様に圧倒される作品。
夏の猛暑に代表される異常気象。それに劣らない犯罪の数々。全く当てにならない政府・・等々、嫌なことは今日限りにして、明日から始まる2011年が、希望に満ちた1年になりますように・・。
(右:「ブラックランズ」の舞台エクスムーア、中:カリフォルニア州の森、左:メキシコ・クリアカン)
高慢と偏見とゾンビ [本]
なんともインパクトのあるタイトルですが、あの「高慢と偏見」(あるいは「自負と偏見」)に、無理やりゾンビを登場させたマッシュアップ小説。
原作は未読でも、コリン・ファースがブレイクしたBBCのドラマや、キーラ・ナイトレイ主演の映画などで、ストーリーをご存知の方も多いかと思います。本作も、大筋は原作とほぼ同じ。
ただし・・18世紀半ば頃から、イギリスでは奇妙な疫病が蔓延し始め、この病に冒された者は死後に墓場から甦り、新鮮な脳ミソを求めて次々に人間を襲う・・つまりゾンビになってしまうという、とんでもない設定。
絶妙のタイミングで登場するゾンビたち、少林寺で修行したベネット姉妹、たまに下ネタ発言をするミスター・ダーシー(ありえない!)、それを解するエリザベス(だめ!そんなの)などなど、「高慢と偏見」、カンフー、ゾンビ・ファンには、とことん楽しい作品。ゾンビとの対決シーンが多ければ、より一層面白かったかもしれません。
でも、特別な思い入れのない者(わたくし)でさえ、”名作にこんなことしていいの?”と思ったほどなので、、真のジェイン・オースティン愛読者、中でも「高慢と偏見」支持者は怒るだろうなぁ。そう思いつつ読むのも、ちょっとしたスリルではありますが。
本作は、ナタリー・ポートマン主演で映画化されるそうです。実現したら、絶対観るわ。
がん難民コーディネーター [本]
当時、母親が、かなり進行した卵巣ガンと診断され、開腹手術、5度の抗がん剤治療で半年入院した後、通院でさらに2年間、抗がん剤の投与を受けました。高齢だった本人は言うまでもなく、家族にとっても辛い経験で、この時から、ガンは他人事ではなくなったのです。
それ以降、ガンにならないための情報は積極的に集めてきました。しかし一昨年、身近な人が相次いで病魔に侵され、彼女たちの闘病を見るにつけ、もっとガン治療について知ろうと本書を手にしました。
がん難民を生む医療現場(08年)の実情、最先端医療の動向など、冒頭から驚きの連続です。無償で”がん難民コーディネーター”をされている著者・藤野邦夫氏(画像)は、ガンの治療法は”秒進分歩”で、その闘いは情報戦だと説きます。それを知らなければ、最初にかかった病院や医師で、患者の運命が決ってしまうこともあるのだとか。
「ガン=死」、「ガン=痛み」ではないなど、ガン患者やご家族にとっては有益な情報と希望に満ちており、またあらゆる人に、ガンをむやみに恐れるなと伝え、勇気を与える内容です。
根拠がないとして信じない方がいるかもしれませんが、人間には西洋医学の理解を超えた力があるという考え方が、本書で紹介されます。実は私の母も、手術はしたものの癒着がひどく、患部の切除ができませんでした。それでも、抗がん剤治療を乗り切り、幸い再発もせず、現在も元気で普通に暮らしています。
母と同じ状況だったら、自分は力尽きていただろうと、ずっと思ってきましたが、本書に出会い、諦めることはない、もしガンになっても戦えると確信できました。何にしろ、まずは相手を知ることが大切です。病気が他人事の方にも、お勧めの一冊。
がん難民コーディネーター~かくして患者たちは生還した~ (小学館101新書)
- 作者: 藤野 邦夫
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2008/12/01
- メディア: 新書
シンプル族の反乱 [本]
という、捉えどころのない不安の中で、本書を手に取りました。バブルを経験していない、これまでの消費一方の暮らしに背を向ける世代を”シンプル族”と名付け、彼らの生き方や嗜好に注目することで、新しい商品作りやサービスのあり方を示唆しています。
出口の見えない不景気に苦慮する小売業者、サービス業者、商品開発に携わる人向けの本ですが、高度成長期の幻影にまだ捉われていた一消費者(わたし)にとっても、目から鱗の内容でした。
本書との出会いで、じっくり身辺を見渡す機会を得、多くの無駄に気づかされたからです。そして今、不用品の整理を進めながら、本当に必要なものを比較検討して購入する、新たな暮らし方にわくわくしています。
みながシンプル族に共感できるはずもありませんが、必要以上の買い物は物を捨てることに繋がり、物を捨てることは地球の環境に悪影響を及ぼす・・という、エコの観点からも極力無駄を省こうとする姿勢は、お金の有無に関わらず大切だと思います。
また、シンプル族はひとつの切り口であって、長く続いた大消費社会という過去にしがみついて右往左往せず、現状に前向きに積極的に対応することで、物を提供する側には景気回復の突破口が見つかると説き、消費者には新しい暮らしを提案する一冊。(画像は、シンプル族が好む無印良品)
たった3秒のパソコン術 [本]
本書には、キーボード、中でも「ショートカットキー」の活用術が書かれています。だから、パソコンをきちんと学んだ方は”何をいまさら”と思うでしょう。でも、キーボードは入力用、それ以外はマウスで・・というあなた(=私)には、目から鱗のありがたい内容です。
右クリックを始め、マウスって万能と思いがちですが、マウスと同じことをキーボードでやれるんですね。ショートカットキーの使い方を知り、慣れ、自分のものに出来れば、いちいちキーボードからマウスに手を移動しなくて済み、その分、時間も短縮できると言う訳。何より楽です。
1章から6章まで、93もの仕事が速くなるコツが詰まっており、しかも、1コツ2ページ完結で、1ページは図解入りという手軽さ。知っていることも多いけれど、マウスからの脱却という、意識改革ができたのは収穫でした。(上は、PC画面をキーだけで撮影、保存したもの)
言いまつがい [本]
読者の投稿になる”言いまつがい”は、言い間違いだけに限らず、聞き違いや長年の勘違い、誰しも陥りがちな”変換”ミスなど多種多様。これが結構ありがちなエピソードのオンパレードで、それゆえに「ばかだな~」と他人事で済まされないところが、一層可笑しさに拍車をかけている気がします。
47ものジャンルに分けられた”まつがい”は、ほぼ7割の確率で笑えます。それではおもしろ可笑しいとは言えないのでは・・という向きもあるでしょうが、感性や好みで確率は幾らでも上がる可能性を秘めており、つぼにはまった時の笑撃は筆舌に尽くしがたいものがあります。しかも、何度読んでも腹抱えます。
「店員」、「電話」、「会社」、「学校」、「病院」、「電車」など、固めの場所、緊張を強いられる環境、そして多くの人が集まるところに、よりヘンな”まつがい”は起きるようです。また中高齢の女性(おばちゃん&おばあちゃん)がいけてますね。おばあちゃん家の調味料入れに「サトオ」、「シヨ」、「ショユー」と書いてある・・なんて、可笑かわいい!(画像からほぼ日サイトへ行けます)
きもちのこえ 19歳・ことば・私 [本]
超未熟児だった誕生から現在までが、素朴な言葉で綴られています。障害ゆえの身体的、精神的苦痛もさることながら、周囲に欲求も感情も伝えられないもどかしさが、13年間も続いたことには胸を衝かれます。想像しただけで恐ろしいです。
でも、全編に満ち満ちているのは、全介助生活を送っている女性・・というイメージとは程遠い、明るさ、パワー、そしてあらゆるものへの感謝の気持ちです。それらを、(一応)健常者の自分は持っているだろうか、いや、持ったことが一度でもあっただろうか・・と、わが身を振り返らずにはいられません。
挫けることもあるし、劣等感だってある。桂さんは、ごく普通の女性だと思います。ただ、もうダメかという時も、生きることを強く望んで乗り越えてきた、彼女の”ことば”は特別です。生を、優しさを、勇気を教えてくれます。
また、彼女と出会い、支えた人たち、中でも、ご両親(特にお母さん)が素晴らしいです。だからきっと、子育て中のお母さま方にも役立つはず。(上の画像から、桂さんのブログ”積乱雲”へ飛べます。日々、更新されてます。すごいです!)
贖罪 [本]
久々に会う兄と妹、家族同然のロビー、常に不在の父、神経質な母、そして両親から引き離されて不安げな従姉弟たち。彼らが一堂に会した時、事件は起きます。
事が起きるまでは、屋敷の様子、庭の花々、そこでいつもと違う一日を過ごす家族の心の内、心の動きが淡々と、けれど克明に描かれ、不思議な緊張感をかもし出していきます。
後半、世界は第二次大戦へ突入。ここでも、戦時下の一刻一刻を懸命に生きようとする彼らの、姿や心の声が丹念に綴られていきますが、イギリス軍の撤退、傷病兵を迎える病院の真に迫る描写に、新たな展開もあって、ページを繰る手を止められなくなります。
最後に、贖罪のひとつの形が明かされる時、それはまた別な発見に繋がって、深い感動を呼ぶ物語。人はなぜ過ちを犯すのか。それは償い得るものなのか。読後、繰り返しさまざまな感情がこみ上げ、登場人物ひとりひとりについて思いを馳せずにはいられません。映画「つぐない」の原作。
血と暴力の国 [本]
ハンティング中だったモスは偶然、砂漠で3台の不審な車を見つける。その内の1台には、大量の麻薬と死にかけて水を求める男。周囲には射殺体。そしてそう遠くないところで死んでいた男は、100ドル札がぎっしり詰まった書類鞄を抱えていた。モスは、ついそれに手をつけてしまう。
一旦家に戻ったモスは、深夜、今度は水を持って砂漠の現場に戻ったために、恐ろしい男に追われることになり・・。
コーマック・マッカーシーは初体験。その最小限にしか読点を打たない独特の文体に、まずは目を見張ります。次に、心理描写をせずに、それを登場人物たちの会話やしぐさなどで伝える手法に引き込まれ、後は切ったように短い、しかし力強い文章に引きづられるばかり。
これは、犯罪小説ならではの結末(犯人の逮捕など)はありません。優しさが死を招く男、己の規律に従って死を与える男、死を覚悟の上で町の人々を守ろうとする男。彼らの人生がメキシコ国境近くで偶然絡み合ったことで、愛する者たちをも残酷な運命へ巻き込んでいきます。信じられないくらい死体が転がります。
しかし、単なる犯罪小説ではなく、原題(No Country for Old Men)通り、アメリカが抱える問題を取上げているのだと思われますが、それを、老保安官エド・トム・ベルの独白の中に滲ませるやり方がいいです。彼の朴訥な語り口は味わい深く、薀蓄に富んでもいます。
「ノー・カントリー・オールド・メン」はコーエン兄弟(上の画像)によって映画化され、来春2月日本公開が予定されています。老保安官にはトミー・リー・ジョーンズ、殺人者シュガー役にハビエル・バルデム。ラストがどう映像化されたかが、とても楽しみ。