ニーナの記憶 [ミステリ小説]
リー・レンは、深夜のスーパーマーケットで老紳士から声をかけられる。相手を思い出せないまま会話を続けるうち、男は豹変。なんと彼は、リーの忘れてしまいたい過去を知る者だった。
リーの本当の名前はニーナ。6年間に12人を手に掛けた殺人鬼ランディ・モズリーの元妻で、夫の逮捕後は名を変え、ここノースカロライナ州ケアリーに移って、息子ヘイデンとひっそり暮らしています。それが、被害者の父親が彼女の前に現れたことで、やっと築き上げた生活が崩れ去り・・。
これがデビュー作となるビル・フロイドは、連続殺人犯の家族の立場から事件を辿るというユニークな発想で、冒頭から緊迫の度を増していく現在と、ニーナの記憶にある過去を交互に語ることで、ヒロインの心の動きと再生を描いていきます。
生活をともにしていた夫が、その間に多くの人間を無残に殺害したとなれば、たとえ法的に無罪であっても自らを責め、世間の目を恐れ、子どもの中の”ある種の兆し”に怯えながら生きなければならない”加害者の家族の苦しみ”が、痛いほど伝わってきます。
アクション映画を観ているようなシーンも含め緊張感は最後まで途切れず、何より犯人の家族しか分りえない恐怖が行間からにじみ出して、本を置くことが出来なくなります。
過去に囚われずニーナに手を差し伸べる人々の存在が物語に温かさを添える中で、「レッド・ドラゴン」ダラハイドのモデルとも言われる、実在の連続殺人鬼NBKからイメージしたランディの不気味さが際立っています。彼の”仕事部屋”は・・夢に見そう。
リーの本当の名前はニーナ。6年間に12人を手に掛けた殺人鬼ランディ・モズリーの元妻で、夫の逮捕後は名を変え、ここノースカロライナ州ケアリーに移って、息子ヘイデンとひっそり暮らしています。それが、被害者の父親が彼女の前に現れたことで、やっと築き上げた生活が崩れ去り・・。
これがデビュー作となるビル・フロイドは、連続殺人犯の家族の立場から事件を辿るというユニークな発想で、冒頭から緊迫の度を増していく現在と、ニーナの記憶にある過去を交互に語ることで、ヒロインの心の動きと再生を描いていきます。
生活をともにしていた夫が、その間に多くの人間を無残に殺害したとなれば、たとえ法的に無罪であっても自らを責め、世間の目を恐れ、子どもの中の”ある種の兆し”に怯えながら生きなければならない”加害者の家族の苦しみ”が、痛いほど伝わってきます。
アクション映画を観ているようなシーンも含め緊張感は最後まで途切れず、何より犯人の家族しか分りえない恐怖が行間からにじみ出して、本を置くことが出来なくなります。
過去に囚われずニーナに手を差し伸べる人々の存在が物語に温かさを添える中で、「レッド・ドラゴン」ダラハイドのモデルとも言われる、実在の連続殺人鬼NBKからイメージしたランディの不気味さが際立っています。彼の”仕事部屋”は・・夢に見そう。
リガの犬たち [ミステリ小説]
モスビー・ストランドの海岸に救命ボートが打ち上げられる。中には高級スーツを着込んだ男性の射殺体が、抱きあうように並んでいた。捜査の過程で、彼らがラトヴィアのマフィアであることが判明し、リガからリエパ中佐が派遣されてくる。
拙い英語による会話でも、ヴァランダーとリエパは互いの人柄を見抜き、短期間で信頼を築きます。数日後、特に捜査の進展もないままリエパは帰国しますが、国に着いたその日のうちに彼が殺されたという報が入り、ヴァランダーはリガ警察からの協力要請を受けますが・・。
通常は銃も携帯しない平和な町の警察官ヴァランダーが赴いたのは、まだ旧ソ連の支配が色濃く残る国。ここで物語は一転。まるでスパイ小説のような様相を呈し始め、誰が味方で誰が敵なのか分らない、不安な状況が続きます。早くスウェーデンに帰らせて・・と、ヴァランダーも読者も切に思います。
しかし、やっと帰り着いた安全な祖国から、ヴァランダーはまたしてもリガへ舞い戻ります。しかも違法に。ここからは、ちょっと暗めの冒険アクション小説風に怒涛のラストへとひた走ります。手に汗握ります。
リエパ中佐の無念を晴らすことよりも、彼の未亡人バイパのために不法入国まで敢てしてしまう、相変わらず惚れっぽいヴァランダーの今後が気になる、異色のシリーズ2作目。それにしても、全体主義は本当に怖い。
拙い英語による会話でも、ヴァランダーとリエパは互いの人柄を見抜き、短期間で信頼を築きます。数日後、特に捜査の進展もないままリエパは帰国しますが、国に着いたその日のうちに彼が殺されたという報が入り、ヴァランダーはリガ警察からの協力要請を受けますが・・。
通常は銃も携帯しない平和な町の警察官ヴァランダーが赴いたのは、まだ旧ソ連の支配が色濃く残る国。ここで物語は一転。まるでスパイ小説のような様相を呈し始め、誰が味方で誰が敵なのか分らない、不安な状況が続きます。早くスウェーデンに帰らせて・・と、ヴァランダーも読者も切に思います。
しかし、やっと帰り着いた安全な祖国から、ヴァランダーはまたしてもリガへ舞い戻ります。しかも違法に。ここからは、ちょっと暗めの冒険アクション小説風に怒涛のラストへとひた走ります。手に汗握ります。
リエパ中佐の無念を晴らすことよりも、彼の未亡人バイパのために不法入国まで敢てしてしまう、相変わらず惚れっぽいヴァランダーの今後が気になる、異色のシリーズ2作目。それにしても、全体主義は本当に怖い。
ロゼアンナ [ミステリ小説]
7月8日、ボーレンスフルト水門近くの泥を浚っていた浚渫船が、女性の全裸死体をすくい上げる。警察は早速捜査を開始するが、2ヶ月が過ぎようとしても依然被害者の身元すら分らなかった。
運河の底に積もった泥の中から、偶然引き上げられた遺体。所持品は見つからず、該当する捜索人届けもなく、絞殺されたこと以外は謎の被害者。しかし、地道な捜査で、彼女が遊覧船の客だった可能性が浮上して・・。
ヴァールー=シュバール夫妻による、マルティン・ベックシリーズ第一弾。被害者の名前も分らない事件の犯人を、ベックを始めとする捜査陣が、それこそ寝食を忘れて追いつめる半年あまりを描いた作品。
家庭では安らぎを得られず、満員の地下鉄を拷問と感じる、若干陰鬱な面のあるベック。彼の同僚で、騒々しいコルべりと記憶力抜群のメランデル、他署のアールベリ、遠くアメリカから協力を惜しまないカフカ刑事など、登場人物たちが生き生きしています。
40年以上前(1965年の作品)の、コンピューターもファックスも携帯電話もない時代の捜査が、もどかしさよりも緊張感を生み、また、被害者の、そして犯人の人間像が明らかになっていく過程から目が離せなくなります。犯人の心理をもっと掘り下げてあると、さらに良かったかも。(モータラの運河を行く遊覧船)
運河の底に積もった泥の中から、偶然引き上げられた遺体。所持品は見つからず、該当する捜索人届けもなく、絞殺されたこと以外は謎の被害者。しかし、地道な捜査で、彼女が遊覧船の客だった可能性が浮上して・・。
ヴァールー=シュバール夫妻による、マルティン・ベックシリーズ第一弾。被害者の名前も分らない事件の犯人を、ベックを始めとする捜査陣が、それこそ寝食を忘れて追いつめる半年あまりを描いた作品。
家庭では安らぎを得られず、満員の地下鉄を拷問と感じる、若干陰鬱な面のあるベック。彼の同僚で、騒々しいコルべりと記憶力抜群のメランデル、他署のアールベリ、遠くアメリカから協力を惜しまないカフカ刑事など、登場人物たちが生き生きしています。
40年以上前(1965年の作品)の、コンピューターもファックスも携帯電話もない時代の捜査が、もどかしさよりも緊張感を生み、また、被害者の、そして犯人の人間像が明らかになっていく過程から目が離せなくなります。犯人の心理をもっと掘り下げてあると、さらに良かったかも。(モータラの運河を行く遊覧船)
殺人者の顔 [ミステリ小説]
明け方の5時半に、隣家の異変を伝える電話が、イースタ署に入る。早速駆けつけた刑事クルト・ヴァランダーが見たのは、血の海と化した寝室と、そこに倒れている老夫婦の無残な姿だった。
ひっそりと質素に暮らす年老いた夫婦を、誰が、なぜ襲ったのか。しかも、発見時意識不明だった妻が、死ぬ間際に残した「外国の」という言葉の意味は・・。
クルト・ヴァランダー・シリーズ第1弾。証拠を基に地道な調査をし、それを持ち寄って話し合い、また捜査を続ける刑事や巡査たち。と、派手さはないのに読ませるのは、登場人物ひとりひとりがとてもリアルに感じられるから。
また、事件の行方もさることながら、妻に去られたために7キロも太り、その元妻との復縁を願い、父の老いに戸惑い、娘を心配し、新任女性検察官に恋心を抱く、私生活がぼろぼろ状態のヴァランダーが気になって仕方ありません。
ミステリーの形をとりつつ、スウェーデンの抱える問題を取上げきたヘニング・マンケル。本作では、無政策に移民、難民を受容れてきたことで起きた、外国人への反感にスポットがあてられています。(ただし1991年当時)
ちょうど冷戦が終結し、北欧にもさまざまな変化が押し寄せた時期に始まった本シリーズ。かつてこの地では想像もできなかったような凶悪事件が増えていく中で、昔ながらの警官ヴァランダーが、どう戦っていくのか。第2弾も楽しみ。(画像は作者)
ひっそりと質素に暮らす年老いた夫婦を、誰が、なぜ襲ったのか。しかも、発見時意識不明だった妻が、死ぬ間際に残した「外国の」という言葉の意味は・・。
クルト・ヴァランダー・シリーズ第1弾。証拠を基に地道な調査をし、それを持ち寄って話し合い、また捜査を続ける刑事や巡査たち。と、派手さはないのに読ませるのは、登場人物ひとりひとりがとてもリアルに感じられるから。
また、事件の行方もさることながら、妻に去られたために7キロも太り、その元妻との復縁を願い、父の老いに戸惑い、娘を心配し、新任女性検察官に恋心を抱く、私生活がぼろぼろ状態のヴァランダーが気になって仕方ありません。
ミステリーの形をとりつつ、スウェーデンの抱える問題を取上げきたヘニング・マンケル。本作では、無政策に移民、難民を受容れてきたことで起きた、外国人への反感にスポットがあてられています。(ただし1991年当時)
ちょうど冷戦が終結し、北欧にもさまざまな変化が押し寄せた時期に始まった本シリーズ。かつてこの地では想像もできなかったような凶悪事件が増えていく中で、昔ながらの警官ヴァランダーが、どう戦っていくのか。第2弾も楽しみ。(画像は作者)
目くらましの道 [ミステリ小説]
スウェーデンの南端、スコーネ地方。イースタ署のヴァランダー警部は、間もなく始まる夏休みを楽しみにしていた。しかし、通報で向かった菜の花畑では、彼の目前で少女が焼身自殺を図り、追い討ちをかけるように元法務大臣の惨殺体が発見される。
斧の一撃で相手を倒し、その後被害者の頭皮を持ち帰る犯人。周到に計画された犯行。誰が、何の目的で、こんな酷いことをするのか。全く見えてこない犯人像に困惑したヴァランダーは、被害者たちの繋がりから調べ始めますが・・。
「タンゴステップ」のヘニング・マンケルの、ヴァランダー警部シリーズ第五弾。少女の自殺がヴァランダーに衝撃を与えたように、ここで読者も掴まります。後は作者の思うがまま。
最後まで息をつかせぬ展開もさることながら、人間味あふれる主人公ヴァランダーがいいです。老父やら娘やら恋人やらと年齢相応の悩みを抱え、心配しすぎる性格を自覚し、幾度も、自分は正しい道を進んでいるだろうかと迷う・・そんな彼が、非常に身近に感じられます。
反面、犯人を追う手を弛めることなく、不眠不休で働き、考え続ける姿勢、気迫に圧倒されます。特に、私事を忘れるほど没頭していく彼の思考の流れに読者も巻き込まれ、本を置くことが出来なくなります。
そして、犯人探し、事件の謎が解かれていくスリルの他に、滅多に意識することがなかった遠い国、スウェーデンへの興味がかき立てられる一冊です。(画像はイースタの町並み。スウェーデン在住の方のブログにリンクしています)
斧の一撃で相手を倒し、その後被害者の頭皮を持ち帰る犯人。周到に計画された犯行。誰が、何の目的で、こんな酷いことをするのか。全く見えてこない犯人像に困惑したヴァランダーは、被害者たちの繋がりから調べ始めますが・・。
「タンゴステップ」のヘニング・マンケルの、ヴァランダー警部シリーズ第五弾。少女の自殺がヴァランダーに衝撃を与えたように、ここで読者も掴まります。後は作者の思うがまま。
最後まで息をつかせぬ展開もさることながら、人間味あふれる主人公ヴァランダーがいいです。老父やら娘やら恋人やらと年齢相応の悩みを抱え、心配しすぎる性格を自覚し、幾度も、自分は正しい道を進んでいるだろうかと迷う・・そんな彼が、非常に身近に感じられます。
反面、犯人を追う手を弛めることなく、不眠不休で働き、考え続ける姿勢、気迫に圧倒されます。特に、私事を忘れるほど没頭していく彼の思考の流れに読者も巻き込まれ、本を置くことが出来なくなります。
そして、犯人探し、事件の謎が解かれていくスリルの他に、滅多に意識することがなかった遠い国、スウェーデンへの興味がかき立てられる一冊です。(画像はイースタの町並み。スウェーデン在住の方のブログにリンクしています)
タンゴステップ [ミステリ小説]
スウェーデンの北、ヘリェダーレンの森の奥で暮らす老人が惨殺される。裸で外に放置された被害者の死因は、鞭で打たれたことによる疲労死。そして奇妙なことに、家の床には血まみれの足跡でタンゴステップが残されていた。
舌ガンの治療のため休暇中だったボローズの警察官ステファン・リンドマンは、被害者モリーンは元同僚であり、彼が常に何かを恐れていたことを思い出します。ガンの恐怖から逃れるように、彼はヘリェダーレンへ向かいますが・・。
スウェーデンの作家ヘニング・マンケルの作品。まずは、主人公が舌ガンに冒されているという設定が異色。死の恐怖に押しつぶされそうになるステファンに感情移入していき、物語の展開と彼の具合の両方が気になって仕方ありません。
徐々に明かされるモリーンの過去。それを遡り始めた途端に起きた第二の殺人。犯人から届いた謎のメッセージ。すべては第二次世界大戦中に始まったと気づいた時、ステファンは、自らの過去とも対峙せざるを得なくなります。
殺人事件の謎解きのスリルは勿論、歴史が生み出したスウェーデン社会の闇に迫り、そして、病と闘うステファンの心の軌跡まで描き出した、読み応え満点の内容。そして読了後、改めてより良き世界を考えずにはいられません。(画像は、事件が起きたヘリェダーレン地方)
舌ガンの治療のため休暇中だったボローズの警察官ステファン・リンドマンは、被害者モリーンは元同僚であり、彼が常に何かを恐れていたことを思い出します。ガンの恐怖から逃れるように、彼はヘリェダーレンへ向かいますが・・。
スウェーデンの作家ヘニング・マンケルの作品。まずは、主人公が舌ガンに冒されているという設定が異色。死の恐怖に押しつぶされそうになるステファンに感情移入していき、物語の展開と彼の具合の両方が気になって仕方ありません。
徐々に明かされるモリーンの過去。それを遡り始めた途端に起きた第二の殺人。犯人から届いた謎のメッセージ。すべては第二次世界大戦中に始まったと気づいた時、ステファンは、自らの過去とも対峙せざるを得なくなります。
殺人事件の謎解きのスリルは勿論、歴史が生み出したスウェーデン社会の闇に迫り、そして、病と闘うステファンの心の軌跡まで描き出した、読み応え満点の内容。そして読了後、改めてより良き世界を考えずにはいられません。(画像は、事件が起きたヘリェダーレン地方)
イエスのビデオ [ミステリ小説]
イスラエル、ベト・ハメシュ発掘現場から、アメリカ人の発掘協力員が掘り出したのは、なんと麻袋に包まれたソニー製ビデオカメラの取り扱い説明書だった。
2000年前の墓の跡から見つかった、未発売ビデオカメラの説明書。それは一体何を意味するのか。この世紀の謎に、発見者のスティーブン、発掘のスポンサーであるカウン、カトリック教会の、それぞれの思惑が絡んだ激しい頭脳戦が始まります。
説明書は本物なのか、カメラはどこにあるのか、そして何が映されているのかが、徐々に明らかになっていきます。一歩先んじているのはスティーブンでも、カウンは財力とコネで、教会は途方もない権力で、彼の後を追ってきます。
アクションシーン満載、三つ巴の追いつ追われつにハラハラし、どんでん返しの連続に翻弄され、歴史的な謎解きに心躍るSFミステリー。ビデオの真贋の判断を、読者に任せているのも心憎い、ドイツ人作家アンドレアス・エシュバッハの日本初登場作品。彼の次回作が楽しみです。(画像は、嘆きの壁と岩のドーム)
2000年前の墓の跡から見つかった、未発売ビデオカメラの説明書。それは一体何を意味するのか。この世紀の謎に、発見者のスティーブン、発掘のスポンサーであるカウン、カトリック教会の、それぞれの思惑が絡んだ激しい頭脳戦が始まります。
説明書は本物なのか、カメラはどこにあるのか、そして何が映されているのかが、徐々に明らかになっていきます。一歩先んじているのはスティーブンでも、カウンは財力とコネで、教会は途方もない権力で、彼の後を追ってきます。
アクションシーン満載、三つ巴の追いつ追われつにハラハラし、どんでん返しの連続に翻弄され、歴史的な謎解きに心躍るSFミステリー。ビデオの真贋の判断を、読者に任せているのも心憎い、ドイツ人作家アンドレアス・エシュバッハの日本初登場作品。彼の次回作が楽しみです。(画像は、嘆きの壁と岩のドーム)
神の獲物 [ミステリ小説]
クレージー・ウーマン・クリーク。娘たちと釣りにやってきた、ワイオミング州狩猟漁業局管理官のジョー・ピケットは、顔の皮が剥がされ、性器が切り取られた無残なムースの死骸を発見する。近郊の牧場では、牛が同様の被害に遭っていることが分り、保安官らが捜査を続ける中、ついに、人間の被害者が出る。
牛やムースと同じ状態で発見された男性の遺体、被害者たちは同時刻頃に離れた場所で死亡しており、ふたりの繋がりも浮かんできません。なぜ、誰が、何の目的でこんな惨たらしいことをするのか、謎は深まるばかり・・。
C.J.ボックスの狩猟漁業局管理官ジョー・ピケット・シリーズ第三弾。彼の仕事場である山や森、そこで生きるものたちの描写にも惹かれますが、寡黙で人付き合いが苦手、でも仕事と家族を心から愛する正義の人ジョー・ピケットの魅力が一番。彼を支え続ける妻、メアリーベスとの関係も素敵です。
1970年代に、そして最近も、北米で実際に起きたキャトル・ミューティレーション(家畜の変死事件)にヒントを得た本作。謎めいた状況に翻弄されるオカルト風の前半と、本格的な謎解きに入る後半と、起伏に富んだ緊張感溢れる展開になっており、保安官との不和がそれに追い討ちをかけます。
ただ、手に汗握る対決後の、超自然的なオチにやや興ざめ。この世には、人知の及ばない事象が多々あることは承知でも、あまり予知夢は使って欲しくなかった。でもそこは、読者の好みで意見が分かれるところかも知れません。本国ではすでに8作を数えるという本シリーズ。次作も楽しみではあります。(画像はクレージー・ウーマン・クリーク)
牛やムースと同じ状態で発見された男性の遺体、被害者たちは同時刻頃に離れた場所で死亡しており、ふたりの繋がりも浮かんできません。なぜ、誰が、何の目的でこんな惨たらしいことをするのか、謎は深まるばかり・・。
C.J.ボックスの狩猟漁業局管理官ジョー・ピケット・シリーズ第三弾。彼の仕事場である山や森、そこで生きるものたちの描写にも惹かれますが、寡黙で人付き合いが苦手、でも仕事と家族を心から愛する正義の人ジョー・ピケットの魅力が一番。彼を支え続ける妻、メアリーベスとの関係も素敵です。
1970年代に、そして最近も、北米で実際に起きたキャトル・ミューティレーション(家畜の変死事件)にヒントを得た本作。謎めいた状況に翻弄されるオカルト風の前半と、本格的な謎解きに入る後半と、起伏に富んだ緊張感溢れる展開になっており、保安官との不和がそれに追い討ちをかけます。
ただ、手に汗握る対決後の、超自然的なオチにやや興ざめ。この世には、人知の及ばない事象が多々あることは承知でも、あまり予知夢は使って欲しくなかった。でもそこは、読者の好みで意見が分かれるところかも知れません。本国ではすでに8作を数えるという本シリーズ。次作も楽しみではあります。(画像はクレージー・ウーマン・クリーク)
2008年、夢中にさせた本ベスト3 [ミステリ小説]
2008年も、良くも悪くも大晦日。一年のまとめとして、これまでは映画の”勝手な”ベスト3をご紹介してきましたが、今年は小説です。それは、単に「面白い!」だけでは言い足りない快作と出会えたから。
1位「チャイルド44」は、若干29歳トム・ロブ・スミスのデビュー作。上下巻というボリュームに躊躇われる向きもあるかもしれませんが、まるで映像になって迫ってくるかのような圧倒的な筆力と、緻密で魅力的な人物造形、意外性、緊張感、謎解き・・と、結末へ向かって一気読み間違いなし。
2位「凍える森」は、ドイツ人女性作家アンドレア・M・シュンケルの処女作。実在の未解決事件に光をあてたミステリーです。といっても、謎解きより、生存者の証言を積み重ねることで見えてくる、寒村の人間ドラマが心に残ります。どなたにも勧められる1位と違い、好き嫌いが分れそうな小品。
3位「おれの中の殺し屋」は、主に1950年代に活躍した犯罪小説家(脚本も手がけた)ジム・トンプスンの作品。彼の小説初体験だったせいもあって度肝を抜かれ、その後、次々と彼の書いたものを読み漁ることになりました。どの作品も猥雑でパワフルですが、本作が最も印象に残っています。
次点が「フロスト気質」。フロスト警部健在!チン〇コ登場回数も群を抜いてます。作者R・D・ウィングフィールドが亡くなったことで、出版の運びとなったのは寂しくも悲しいけれど、こうなったら未翻訳分をどんどん出しちゃってください。創元推理文庫さま、お願いします。
最後になりましたが、今年も本ブログを覗いてくださったみなさま、その上、「nice」まで賜った方々に、心からお礼申し上げます。来年もみなさまにとって、素晴らしい一年になりますように・・。(画像左より、トム・ロブ・スミス、アンドレア・シュンケル、ジム・トンプスン、R・D・ウィングフィールド)
1位「チャイルド44」は、若干29歳トム・ロブ・スミスのデビュー作。上下巻というボリュームに躊躇われる向きもあるかもしれませんが、まるで映像になって迫ってくるかのような圧倒的な筆力と、緻密で魅力的な人物造形、意外性、緊張感、謎解き・・と、結末へ向かって一気読み間違いなし。
2位「凍える森」は、ドイツ人女性作家アンドレア・M・シュンケルの処女作。実在の未解決事件に光をあてたミステリーです。といっても、謎解きより、生存者の証言を積み重ねることで見えてくる、寒村の人間ドラマが心に残ります。どなたにも勧められる1位と違い、好き嫌いが分れそうな小品。
3位「おれの中の殺し屋」は、主に1950年代に活躍した犯罪小説家(脚本も手がけた)ジム・トンプスンの作品。彼の小説初体験だったせいもあって度肝を抜かれ、その後、次々と彼の書いたものを読み漁ることになりました。どの作品も猥雑でパワフルですが、本作が最も印象に残っています。
次点が「フロスト気質」。フロスト警部健在!チン〇コ登場回数も群を抜いてます。作者R・D・ウィングフィールドが亡くなったことで、出版の運びとなったのは寂しくも悲しいけれど、こうなったら未翻訳分をどんどん出しちゃってください。創元推理文庫さま、お願いします。
最後になりましたが、今年も本ブログを覗いてくださったみなさま、その上、「nice」まで賜った方々に、心からお礼申し上げます。来年もみなさまにとって、素晴らしい一年になりますように・・。(画像左より、トム・ロブ・スミス、アンドレア・シュンケル、ジム・トンプスン、R・D・ウィングフィールド)
チャイルド44 [ミステリ小説]
1933年、飢餓に苦しむウクライナ地方の森から、幼い兄弟の兄が姿を消す。それから20年が過ぎたモスクワで、やはり兄弟の、4歳の弟がいなくなる。しかし、この少年は、間もなく線路脇で無残な遺体となって発見される。
独裁者スターリン統治下のソ連。生きるため、人が人を食うほどの飢饉。生き残るため、肉親をも告発するという選択。本書がデビュー作となるトム・ロブ・スミスは、入念な時代考証に裏付けされた迫真の描写で、かつて確かに存在した恐ろしい世界に、読者を引き込んでいきます。
1980年代、12年間にわたり、52人もの少年少女を惨殺したチカチーロ事件にヒントを得たという本作は、国家の”連続殺人否定”が被害を拡大させた点は共通しているものの、サスペンスあり、手に汗握る逃走と追跡劇あり、あっと驚く結末も用意されたエンタテイメント小説。
どこをとっても味わい深い作品ですが、あえて挙げれば、見事に造形された全ての登場人物たちが、読後も長く心から消えないところが気に入っています。多くの国での翻訳が決っているのに、ロシアでは発禁本なんだとか。大納得。(画像は、全てが始まったウクライナ地方の典型的農家)
独裁者スターリン統治下のソ連。生きるため、人が人を食うほどの飢饉。生き残るため、肉親をも告発するという選択。本書がデビュー作となるトム・ロブ・スミスは、入念な時代考証に裏付けされた迫真の描写で、かつて確かに存在した恐ろしい世界に、読者を引き込んでいきます。
1980年代、12年間にわたり、52人もの少年少女を惨殺したチカチーロ事件にヒントを得たという本作は、国家の”連続殺人否定”が被害を拡大させた点は共通しているものの、サスペンスあり、手に汗握る逃走と追跡劇あり、あっと驚く結末も用意されたエンタテイメント小説。
どこをとっても味わい深い作品ですが、あえて挙げれば、見事に造形された全ての登場人物たちが、読後も長く心から消えないところが気に入っています。多くの国での翻訳が決っているのに、ロシアでは発禁本なんだとか。大納得。(画像は、全てが始まったウクライナ地方の典型的農家)